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人事部の担当者は、「ドレス・コード」の違反はすなわち会社の方針を遵守していないということであり、給与やボーナスの査定で減点の対象にすべきと主張し、その通りになったのだ。
ところが、対象にされた社員たちは怒り、会社側に反撃を試みた。 「私が何月何日ジーンズをはいて会社に来たと、人事部の書面には書いてあったが、あれはジーンズではない。色は青いが、仕立てはきちんとしたチノパンツで、ブランドはオースチン・リードである。何ならそのパンツを会社に持って来るから、皆で、鑑定したらどうだ。ジーンズと普通のズボンの区別さえつかないのか」「私が襟のないTシャツを着ていたからいけないと人事部は言っているが、債券部長のポールは、派手なラグビーのジャージーを会社に着て来たではないか。あの方がよほど不適切で規則違反なのに、警冒告が出ていないのはなぜか」社員からこのような不満と苦情が殺到して、人事部はもちろん、経営陣もその対応にタジタジになったのである。
そうした職場で、私は当初、ずっと背広を通していた。 ネクタイを締めないと、どうも仕事に対する緊張感が湧かない気がした。
もっと実際的な理由として、顧客と大事なミーティングがある日など、ついうっかり軽装で出社して来てあわてることがないように、普段からネクタイと背広を着用していた。 事実、イギリス人の同僚たちは、実にしばしば、この「ついうっかり」をやらかした。

重要な会合であるにもかかわらず、朝出かけにそのことを忘れて、ノーネクタイ、赤いポロシャツなどで会社に来られては本当に困る。 初対面のあいさつの時に、顧客に、「当社は、カジュアル・ウェアで仕事をすることになっておりまして、ついうっかり普段の格好で来たものですから、こんな格好で失礼します」と断りを入れると、たいてい、「ああ、そうですか。いえ、別に構いませんよ」と言ってくれるが、皆、ネクタイ、背広でかしこまっている席に、一人だけ赤いポロシャツの男が交じっているというのはおかしな具合だ。
この社員は明らかに、今日の朝の時点で、この会議のことを失念していたわけで、それだけ相手を重要視してなかったことを暴露しているようなものだ。 少なくとも私などはそんな気がして落ち着かない。
その社員を外して商談をしたいところだが、彼がいないと話が進まない場合など、それも出来ない。 客の中には「別に構いませんよ」とは言ってくれず、ちらりと冷たい視線を赤いポロシャツの社員に走らす人もおり、そういう時は冷や汗が出る。

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